東京の宿泊市場はいま、大きな転換点にあります。
一方では、海外から東京を訪れる旅行者が過去最高水準まで増えています。
2025年の訪日外国人数は全国で約4,268万人。東京都を訪れた外国人旅行者数も約2,865万人となり、過去最高を更新しました。東京都における外国人観光消費額も約4.55兆円まで拡大しています。
つまり、東京には巨大な宿泊需要があります。
その一方で、住宅地を中心として急速に増加した民泊や小規模宿泊施設について、騒音、ゴミ、セキュリティ、管理者不在などを巡る問題が各区で顕在化し、2025年から2026年にかけて東京23区では規制強化が急速に進み始めました。
ここで重要なのは、
「民泊が禁止される」という単純な話ではない
ということです。
東京には、法律上まったく性格の異なる複数の宿泊制度が存在しています。
そして現在起きている規制強化は、それぞれの制度の価値を大きく変え始めていると見ています。
先に書いておくと、私は民泊の専門家でもアナリストでもありません。東京で不動産を持ち、運営している一事業者として、公表されている数字を追いながら、この変化をどう見ているかを書いています。
まず理解したい、東京の「4種類の宿泊ビジネス」
一般的にはすべて「民泊」と呼ばれることがありますが、法律上は大きく4種類に分かれます。
| 制度 | 法的根拠 | 手続 | 年間営業可能日数 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 住宅宿泊事業 (新法民泊) | 住宅宿泊事業法 | 届出 | 最大180日 | 「住宅」を利用。区条例でさらに営業日を削減可能 |
| 特区民泊 | 国家戦略特別区域法 | 認定 | 年間上限なし | 東京23区では主に大田区。最低2泊3日以上 |
| 簡易宿所 | 旅館業法 | 許可 | 原則365日営業可能 | ゲストハウス、小規模宿泊施設、一棟型施設等 |
| 旅館・ホテル営業 | 旅館業法 | 許可 | 原則365日営業可能 | ホテル・旅館等。建築・消防・衛生等の要件が厳しい |
住宅宿泊事業法上の民泊は、4月1日正午から翌年4月1日正午までの1年間で180日までです。
182日ではありません。
さらに自治体は条例によって、この180日を実質的に短縮できます。
一方、旅館業法に基づく簡易宿所、旅館・ホテル営業には、この180日という年間営業日数制限はありません。
大田区の特区民泊も別制度で、最低滞在日数は2泊3日以上ですが、年間営業日数そのものには上限がありません。
つまり、
では、不動産としての性格そのものが違います。
出所:観光庁 民泊制度ポータルサイト「住宅宿泊事業法(民泊新法)とは?」、大田区「大田区の民泊制度について」、大田区「特区民泊認定に関するQ&A」(PDF)
2018年は「民泊解禁」、2025~2026年は「再規制」の局面へ
- 2018年6月 住宅宿泊事業法 施行(いわば「民泊解禁」)
- 2018年~ 制度利用が急速に拡大
- 2025~2026年 渋谷区、墨田区、葛飾区、台東区、豊島区、江戸川区などが相次いで条例を強化
- 2026年6月 東京23区の区長全員が連名で、国に住宅宿泊事業制度の見直しを要望
住宅宿泊事業法が施行されたのは2018年6月です。
当時の政策的な方向は、一定のルールのもとで住宅を宿泊施設として活用できるようにする、いわば「民泊解禁」でした。
その後、制度利用は急速に拡大しました。
しかし2025年から2026年にかけて流れが変わります。
渋谷区、墨田区、葛飾区、台東区、豊島区、江戸川区などが相次いで条例を強化し、新宿区や大田区でもさらに強い規制が検討されています。
さらに2026年6月には、東京23区の区長全員が連名で国に住宅宿泊事業制度の見直しを要望しました。
要望には、
- 自治体が規制できる範囲の拡大
- 現在の届出制から更新制を伴う許可制への変更
- 海外事業者への国内住所要件
- 管理業者の規制強化
- 違法物件を掲載するOTAへの規制
などが含まれています。
もちろん、現時点で住宅宿泊事業法が許可制に変更されたわけではありません。
しかし政策の方向性が、2018年当時とは明らかに変わってきていることは確認できます。
東京23区には、いま何件の民泊があるのか
2026年7月15日時点で、東京23区の住宅宿泊事業は、
2026年7月15日時点。出所:観光庁「住宅宿泊事業法に基づく届出及び登録の状況一覧」
です。
全国の営業中住宅宿泊事業42,070件のうち、約40.2%が東京23区に集中しています。
つまり、日本の新法民泊の約4割が東京23区に存在する巨大市場です。
さらに興味深いのは、その立地が極端に集中していることです。
新宿区、墨田区、渋谷区、豊島区の4区だけで、
9,760件
あります。
これは東京23区の営業中民泊16,920件の約58%です。
したがって、この4区の条例が変わるだけでも、東京の民泊市場全体に大きな影響を与えると考えています。
東京23区の新法民泊ストック
2026年7月15日時点の営業中施設数は次の通りです。
区別の件数表を見る(23区・区コード順)
| 区 | 新法民泊・営業中 |
|---|---|
| 千代田 | 56 |
| 中央 | 107 |
| 港 | 874 |
| 新宿 | 3,775 |
| 文京 | 327 |
| 台東 | 1,373 |
| 墨田 | 2,314 |
| 江東 | 48 |
| 品川 | 242 |
| 目黒 | 26 |
| 大田 | 254 |
| 世田谷 | 546 |
| 渋谷 | 1,845 |
| 中野 | 458 |
| 杉並 | 440 |
| 豊島 | 1,826 |
| 北 | 606 |
| 荒川 | 13 |
| 板橋 | 455 |
| 練馬 | 119 |
| 足立 | 278 |
| 葛飾 | 394 |
| 江戸川 | 544 |
| 23区合計 | 16,920 |
出所:観光庁「住宅宿泊事業法に基づく届出及び登録の状況一覧」、2026年7月15日現在。
この数字を見ると、なぜ新宿、墨田、渋谷、豊島で規制問題が大きくなっているのかが見えてきます。
ただし、重要な事実がある――民泊はまだ減っていない
ここは誤解されやすいところだと思います。
規制強化が進んでいるにもかかわらず、東京23区の営業中住宅宿泊事業は、
へ増加しています。
4か月で677件、約4.2%増です。
したがって、
「規制強化によって東京の民泊がすでに大量に廃業している」
という説明は、現在の統計とは合いません。
今起きているのは、もっと重要な別の変化です。
新しく参入できる場所と、合法的に営業できる日数が急速に減っている
のです。
出所:観光庁「住宅宿泊事業法に基づく届出及び登録の状況一覧」2026年3月13日現在(PDF)、2026年7月15日現在(PDF)
「施設数」より重要な数字――合法的に販売できる宿泊日数
宿泊供給を考える場合、単純な施設数だけを見ると本質を見誤ると考えています。
より重要なのは、
施設数 × 合法的に営業できる日数
です。
例えば1件の民泊が存在していても、年間180日営業できる施設と、年間63日しか営業できない施設では、市場に供給できる宿泊量がまったく違います。
これを簡単に表すと、
となります。
この考え方で見ると、現在の規制強化のインパクトが掴みやすくなると思います。
渋谷区――180日から63日へ
渋谷区では2026年7月から、新規住宅宿泊事業について規制区域を拡大しました。
対象区域では、年間180日の国法上限に対して、実質的に年間63日しか営業できません。
計算すると、
63 ÷ 180 = 35%
です。
つまり同じ1施設でも、合法的な宿泊供給能力が65%減少する
ことになります。
施設が廃業しなくても供給は減る、という点が重要だと思います。
一方、2026年6月末までの既存届出施設には経過措置があります。
このため規制は、既存施設を直ちに消滅させるというより、新規供給を強く絞る
構造になっています。
結果として既存の合法ストックそのものの相対的価値が上がる可能性があります。
豊島区――既存1,826件にも120日制限
豊島区はさらに踏み込んでいます。
2026年12月16日から、区内全域で住宅宿泊事業の営業期間を、
年間120日
に制限します。
しかも、この120日制限は既存施設にも適用されます。
さらに住居専用地域、住居地域、準工業地域、文教地区など、区内約70%の地域について新たな区域制限を設けます。
現在、豊島区には1,826件の営業中新法民泊があります。
仮に全施設が現在の180日枠を最大限利用できていると仮定すると、法的な最大供給能力は、
| 計算 | 法的な最大供給能力 | |
|---|---|---|
| 現在(180日枠) | 1,826 × 180日 | 328,680施設日 |
| 120日制限後 | 1,826 × 120日 | 219,120施設日 |
| 差 | 109,560施設日(約33%減少) |
約33%の法的供給能力減少です。
もちろん、すべての事業者が180日を完全消化しているわけではないため、これは実際の宿泊数の予測ではありません。
ただ、制度上の最大供給能力がどの程度縮小するかを見るには、参考になる数字だと思います。
墨田区――2,314件の巨大市場で新規供給を制限
墨田区には営業中の新法民泊が2,314件あります。
新宿に次ぐ巨大な民泊市場です。
2026年4月から、原則として日曜日正午から金曜日正午まで住宅宿泊事業を営業できないという大幅な制限が導入されました。
つまり、新規の住宅宿泊事業は事実上週末中心の営業モデルになります。
同時に旅館業についても、新規申請施設に従事者の常駐を求める制度へ変更されました。
ただし、旅館業の新しい常駐義務については、2026年4月1日以降に許可申請する施設が対象です。
したがって旧基準下で適法に許可された既存旅館業施設と、新しく旅館業を始める施設との間に規制条件の差が生まれています。
出所:墨田区「住宅宿泊事業及び旅館業に関する規制について」、資料2「墨田区における住宅宿泊事業及び旅館業に関する現状」(PDF)
葛飾区・台東区でも同じ方向
葛飾区では2026年4月から、新規住宅宿泊事業について原則として、月曜日正午から土曜日正午まで営業不可
となりました。
一定の商業地域や家主居住型などは例外ですが、新規の住宅系民泊には大きな制約です。
台東区でも2026年10月から、新規届出の住宅宿泊事業について平日営業を制限します。
台東区にはすでに営業中民泊が1,373件存在します。
しかも旅館業については以前から、施設内への常駐者配置を求める非常に厳しい運用を行っています。
浅草・上野という巨大な観光需要を抱えながら、新しい無人宿泊施設を簡単に増やせる市場ではなくなってきていると見ています。
出所:葛飾区「規制の新旧対照表」(PDF)、台東区「住宅宿泊事業(民泊)における台東区の条例を改正しました」、台東区「旅館業法施行条例の一部改正について」
新宿区は東京全体への影響が最も大きい可能性がある
新宿区には現在、
3,775件
の営業中民泊があります。
東京23区全体16,920件の約22%を、新宿区だけで占めています。
さらに2026年8月段階では届出住宅は4,000件近くまで増え、年間1,300件を超える苦情が寄せられていると区から説明されています。
区内民泊のおおむね半数が住居系用途地域に存在するとされ、新宿区は現在さらに強い規制を検討しています。
私が特に気にしているのは、既存施設への規制適用まで検討対象に入っていることです。
2026年9月17日時点ではまだ最終条例ではありません。
しかし、もし既存施設まで営業可能日数が大幅に短縮されれば、その影響規模は他区より大きくなる可能性があります。
出所:報道(産経新聞(Yahoo!ニュース))。新宿区の公式資料は本稿執筆時点で確認できていません。
2026年、23区の規制地図はこう変わっている
| 区 | 時期 | 主な規制方向 | 既存施設への影響 |
|---|---|---|---|
| 渋谷 | 2026年7月施行 | 規制区域拡大、新規は対象区域で年間63日 | 既存は原則旧ルール |
| 墨田 | 2026年4月施行 | 新規民泊を週末中心へ。旅館業にも常駐規制 | 経過措置あり |
| 葛飾 | 2026年4月施行 | 新規民泊は原則平日営業不可 | 既存は当面旧扱い |
| 台東 | 2026年10月施行 | 新規民泊の平日営業制限 | 既存に経過措置 |
| 豊島 | 2026年12月施行 | 全区で年間120日、約70%地域で強い区域制限 | 120日制限は既存にも適用 |
| 江戸川 | 2026年7月施行 | 地域管理・運営規制強化 | 個別条件による |
| 新宿 | 検討中 | 住居系地域を中心に大幅規制を検討 | 既存適用も検討中 |
| 大田 | 改正検討中 | 民泊+旅館業双方の管理規制強化 | 一部既存適用を想定 |
これを見ると、規制強化は一つの区だけで起きている現象ではありません。
東京23区全体に広がっている構造変化だと考えています。
では、東京にはどのくらい「旅館業」のストックがあるのか
ここで住宅宿泊事業だけではなく、旅館業側を見てみます。
2024年度末の東京23区には、
2024年度末・東京23区。出所:東京都「東京都統計年鑑」
があり、旅館業全体では6,121施設あります。
一方、新法民泊は2026年7月時点で16,920件です。
施設「件数」だけを比較すると、
となります。
ただしホテル1施設には数十~数百室存在することがあるため、施設件数をそのまま宿泊供給量として比較することはできません。
私が押さえておきたいのは、
東京の宿泊市場は、大量の小規模住宅宿泊事業と、365日営業可能な旅館業施設が併存する構造
になっているという点です。
区別に見る、新法民泊・簡易宿所・旅館ホテル
確認できた行政統計を並べると、次のようになります。
| 区 | 新法民泊・営業中 2026年7月 | 簡易宿所 2024年度末 | 旅館・ホテル 2024年度末 |
|---|---|---|---|
| 千代田 | 56 | 17 | 140 |
| 中央 | 107 | 17 | 209 |
| 港 | 874 | — | — |
| 新宿 | 3,775 | 52 | 511 |
| 文京 | 327 | 7 | 43 |
| 台東 | 1,373 | 205 | 675 |
| 墨田 | 2,314 | — | — |
| 江東 | 48 | 16 | 223 |
| 品川 | 242 | 23 | 166 |
| 目黒 | 26 | 4 | 62 |
| 大田 | 254 | 22 | 107 |
| 世田谷 | 546 | — | — |
| 渋谷 | 1,845 | 18 | 462 |
| 中野 | 458 | 30 | 161 |
| 杉並 | 440 | 8 | 100 |
| 豊島 | 1,826 | — | — |
| 北 | 606 | 114 | 36 |
| 荒川 | 13 | 31 | 62 |
| 板橋 | 455 | 7 | 77 |
| 練馬 | 119 | — | — |
| 足立 | 278 | 14 | 75 |
| 葛飾 | 394 | 29 | 306 |
| 江戸川 | 544 | 6 | 80 |
| 23区合計 | 16,920 | 755 | 5,358 |
※「—」は0件という意味ではありません。今回参照した東京都統計の抽出データから区分別内訳を確定できなかった区であり、23区合計には含まれています。
参考までに、墨田区は区独自資料で2024年度末の旅館業施設全体が753施設まで増えていることを公表しており、同区だけを見ても宿泊事業の急拡大が分かります。
この数字から何が見えるのか
私には、非常に興味深い構造に見えます。
新法民泊が特に多いのは、
です。
そして、まさにこれらのエリアで規制強化が進んでいます。
つまり行政は、宿泊需要そのものを抑えようとしているというより、
住宅を大量に短期宿泊へ転用するモデルに対して制約を強めている
と見る方が実態に近いと思います。
一方、宿泊需要は消えません。
そこで需要の受け皿となるのが、
- ホテル
- 簡易宿所
- 既存旅館
- 適法な一棟型宿泊施設
です。
これから民泊は何件減るのか
何件減るのかは、現段階では断定できません。むしろ2026年前半までは民泊件数は増えています。「何千件減る」といった予測を現時点でするのは適切ではありません。
ただ、供給能力がどの程度失われる可能性があるかは計算できます。例えば豊島区。1,826件の既存ストックについて、法定上限が180日から120日に変われば、最大営業日ベースでは約33%減です。渋谷区の新規対象施設では180日から63日なので約65%減。墨田、葛飾、台東でも、新規住宅宿泊事業は週末・休日中心の運営へ制約されます。
つまり今後の市場は、見る指標そのものを変える必要があると考えています。
施設数が横ばいでも、合法的に販売できる宿泊日数は減っていくからです。
なぜ東京の民泊は厳しくなってきたのか
制度の話はここまでですが、現場ではもう少し手前の理由で厳しくなっています。規制が入る前に駆け込みで民泊を始めた件数が多く、供給過多になってきているという点です。
東京のインバウンド自体が減っているわけではありませんし、今後も外国人需要が減っていくとは考えにくい。ただ、日中関係の影響やビザの問題などから、中国人観光客がやや減少している現実もあります。結果として、想定していた予約数に達せず、現状で儲からない民泊がかなり出てきています。
さらに、競争も激化しています。当初は一般の個人投資家が普通の賃貸借で物件を借り、それを転貸(サブリース)する形で始めていました。参入障壁が低く物件数もまだ少なかったため、参入しやすい良い時代もありましたが、そもそもプレイヤーの数が増えすぎました。
借りて回す形は、競争力を失いつつある
加えて、こうした課題が浮き彫りになっています。
- 素人による中途半端な運営でクレームやトラブルが多発していること
- 更新のタイミングでオーナーから賃上げを打診されたり、定期借家契約の条件次第では再契約が難しかったり、同条件での更新ができなかったりすること
- 資金力のある本物の投資家が新規参入し、法令を遵守した上で、建物コンディションやサービスの質が高い優れた宿泊施設を提供し始めていること
かつては「ホテルに比べて安く宿泊費を抑えられる」ことで満足していた宿泊客の要求水準も上がっており、クオリティの高いスタンダードに合わせざるを得なくなっています。しかし賃貸の場合、「自分の所有物ではない物件に対してどこまで費用と投資を投じられるか」という不確実性がつきまといます。そのため、賃貸借による民泊の競争優位性は落ちており、よりプロフェッショナルな市場へ移行しているのが実情です。
またライセンス面でも規制強化が進んでおり、場合によっては遡及適用により、今までできていた運営ができなくなるリスクもあります。より旅館業法などのしっかりとしたライセンスを持ち、高度な知識と管理能力が求められる世界になってきています。
ヒット・アンド・ランのような一時的なビジネスではなく、確かな資本力を持ち、良い物件を自社で所有して腰を据えて運営できるプレイヤーしか残らないのではないか
というのが、現在の我々の考え方です。
希少になるのは、どういう物件か
ここまでを見ると、今後どのような宿泊不動産に希少性が生じる可能性があるのかが見えてきます。単純に「旅館業許可が付いている物件」というだけではありません。より重要なのは、次の条件を持つ不動産だと考えています。
-
1
旅館業許可をすでに取得している
住宅宿泊事業の180日枠ではなく、原則365日営業できる。
-
2
一棟を所有できる
管理組合や他の区分所有者に依存せず、出入口、管理室、消防設備、宿泊者動線などを自分でコントロールできる。
-
3
建築・消防・旅館業上適法である
単に営業許可証が存在するだけでなく、その前提となる建築・消防適合性が確認できる。
-
4
将来有人化を求められても対応できる
管理室やフロントを設置でき、スタッフを配置しても事業が成立する。
-
5
許可・事業を次の所有者へ承継できる
2023年の旅館業法改正により、事業譲渡について行政の事前承認を受ければ、旅館業の営業者としての地位を承継できる制度が導入されました。
一見すると、規制が厳しくなる区は投資対象として避けるべきだと考えたくなります。しかし既存ストックについては、逆の見方もできます。例えば墨田区。現在、住宅宿泊事業は2,314件あります。新規民泊の営業可能日は大幅に制限され、さらに新規旅館業には常駐義務が加わりました。一方、旧基準下で既に適法に営業している旅館業施設については、新しい常駐義務が原則として遡及していません。
新しく同じものを作ることが以前より難しくなった
つまり、既存旅館業の価値を考えるとき、「旅館業許可を取るためにいくらかかったか」だけを見るのは十分ではありません。より重要なのは、いま同じ場所に、同じ収益構造の施設をもう一度作れるのかということだと考えています。これから許可を取る建物に、常駐スタッフ、管理室、フロント、近隣説明、新しい消防設備などが新しい条例によって要求されるのであれば、旧基準で許可を取り365日営業している一棟旅館と同じ運営コストでは再現できなくなる可能性があります。
一棟所有が重要な理由
この点で、一室型旅館と一棟旅館には大きな違いがあります。マンションの一室では、共用エントランス、共用廊下、エレベーター、非常階段、管理室、フロントスペースをオーナーが自由に変更できません。だから将来、「施設内に従業員を常駐させること」「宿泊者と居住者の動線を分離すること」といった規制が導入されれば、物理的に対応できない場合があります。
実際、豊島区では「一部屋旅館」の増加を問題視しています。同区の旅館業施設は2026年時点で510施設まで増加し、令和6年度比約7割増。旅館業に関する苦情は令和7年度に80件と前年度の約4倍に増えました。そのため豊島区は、旅館業にも従業員常駐義務を導入する方向で条例改正を検討しています。
これに対し一棟所有なら、管理室を作る、スタッフを配置する、出入口を変更する、防犯カメラを追加する、消防設備を追加する、宿泊客の動線を変更する、といった対応ができます。この自由度そのものが将来の価値になると考えています。
我々の考え方と、いま見ている物件
こうした見方から、我々としても旅館業への参入チャンスは引き続き伺っており、物件調査も継続的に行っています。一方で、物件を借りて転貸するという手法は今のところ考えていません。
そのうえで、いま我々が仲介物件としてご紹介したいと考えているのは、ここまで挙げた条件に合うものです。旅館業許可がきちんと取得されていること、建物が建築・消防の面で確かであること、都内で宿泊需要のある立地にあること、そして365日の運営ができること。この組み合わせが揃っている一棟物件を、現在も都内で複数扱っています。
ただし、特定の区が安全だという話ではありません。同じ区の中でも物件ごとに事情は違いますし、区の規制はいまも動いています。見るべきは区名ではなく、その建物が条件を満たしているかどうかです。
こうした物件を見る場合、表面利回りだけでは十分ではないと考えています。土地と建物に加えて、既存の旅館業許可、運営実績、そして規制が変わっても営業を続けられるかどうかを、あわせて見るようにしています。
東京の宿泊市場は、いま大きな転換期にある
今回の規制強化を「民泊がなくなる」という話として見るのは適切ではないと思います。東京23区では2026年前半にも民泊件数は増えています。しかしその裏側では、営業可能日数が短縮され、住宅地で新規参入できなくなり、近隣説明が重くなり、管理者要件が厳しくなり、無人型旅館にも規制が及ぶという変化が進んでいます。
合法的な宿泊供給が、規制の緩い「住宅」から、管理責任・建築・消防・運営体制を備えた「宿泊施設」へ徐々に再集約される
その過程で重要になるのは、新しく許可を取れるかどうかだけではありません。すでに存在している適法な宿泊施設を取得できるかどうかだと考えています。
訪日旅行者は4,000万人を超え、東京だけでも外国人旅行者は約2,865万人。一方、東京23区には約16,900件の新法民泊と約6,100件の旅館業施設があり、新法民泊の約58%が新宿、墨田、渋谷、豊島というわずか4区に集中しています。その主要区で現在、一斉に規制が強化されています。
この構造を考えると、今後価値を持つ可能性があるのは単に「民泊ができる不動産」ではなく、新たに同じものを作ることが難しくなっていく一方で、365日営業能力を維持できる既存の適法な一棟宿泊施設ではないかと思います。特に、新規参入規制が強くなっている区ほど、この「再調達困難性」が重要になる可能性があります。
もちろん、旅館業許可が資産価値の上昇を保証するものではありません。立地、取得価格、建築・消防適法性、管理コスト、有人化した場合の採算性、許可承継可能性などを個別に確認する必要があります。しかし東京の宿泊不動産を考えるとき、
という視点は、これまで以上に重要になってくると思います。それが、東京の宿泊不動産に生まれ始めている、
規制による希少性
だと考えています。
簡易的にスタートし、運営体制・建物のクオリティ・サービスのレベルが満たない物件は、今後かなりのスピードで淘汰されていくはずです。民泊・宿泊業というマーケットは、まさに今、大きな転換期を迎えていると考えています。
主な参照資料
区別の届出住宅数(2026年3月13日・7月15日現在)
特区民泊・住宅宿泊事業・旅館業の比較、条例改正骨子案
各区の住宅宿泊事業・旅館業に関する条例改正
新宿区の公式資料は本稿執筆時点で確認できていないため、報道を参照しています。
本稿は2026年9月17日時点で公表されている法令、自治体資料および統計資料に基づいています。条例、許認可、経過措置および営業条件は施設所在地、申請時期、営業形態等によって異なります。個別物件については所管保健所、建築・消防関係機関等への確認が必要です。